DSでHomebrewを実行するマジコンは進化の道を間違えた 第2部

この記事は
DSでHomebrewを実行するマジコンは進化の道を間違えた 第1部
の続きです。

長文のため3部作でお伝えしています。
DSでHomebrewを実行するマジコンは進化の道を間違えた 第1部
DSでHomebrewを実行するマジコンは進化の道を間違えた 第2部
DSでHomebrewを実行するマジコンは進化の道を間違えた 第3部

3: 法律で認められたマジコン

このまま世界中でマジコンが規制されて駆逐されていくと思われた最中、違法天国中国と同じ国民性ジョークで表現されるフランスでマジコン合法判決が下されました。任天堂から訴えられていた、中国に本部を置くDivineoフランスはその判決を受け、次のようなプレスリリースを発表しました。
字数制限のため、一部要約でお伝えします。【情報源:Divineo


判決要旨

2009年12月3日にパリの裁判所はフランスと日本の任天堂が自社のゲーム機ニンテンドーDS/DSLite用マジコン(Cyclo Evolutionなど)の販売に関する訴えに対し、フランスのDivineo SARLに無罪判決を言い渡しました。カナダやスペインでも同様の判決が出ています。

ゲーム業界の背景事情
任天堂はソニー、マイクロソフトと並ぶ3大ゲームメーカーのひとつですが、うち任天堂とマイクロソフトは市場を独占しようとして法的手段に打って出てきました。
Divineoは主に任天堂のゲーム機関連のアクセサリー販売大手です。また任天堂のゲーム機向けソフトウェア制作のパートナーとして数多くのゲームを手掛け、サードパーティー製ゲーム発売とその成功に寄与してきました。

そのDivineo SARLが、より販売量の多い販売店が他にあるにもかかわらず香港におけるマジコン販売で任天堂から提訴され、あまりに不合理ともいえる5,000万ユーロの損害賠償を求められました。

任天堂の戦術は、自己保身のためヨーロッパの法律が及ばない海外での事例をヨーロッパでわざわざ訴え、関連会社としてその影響を受けざるを得ない結果を得るという公正さを欠くものです。

マジコンがもたらす利点
マジコンは個人が開発したHomebrewと呼ばれる自作アプリケーションをニンテンドーDSで実行するためのアクセサリーです。任天堂が供給する数より遥かに数も種類も多いHomebrewアプリケーション(マルチメディアプレーヤーや、GPSを使ったアプリケーション、オリジナルゲームなど)が開発者のコミュニティで発表されています。

そのHomebrew(特にメディアプレーアー機能)の有益性に任天堂自身が目をつけ、日本でDSVisionという製品を発売しました。しかし性能はマジコンに劣り、ソフトウェア供給も任天堂の支配下に置かれています。そして任天堂にライセンス料を支払っていない個人開発者が作成したHomebrewは動作しないようになっています。マジコンが先に搭載したMP3やビデオ再生機能に至ってはDSiで最初から採用されています。つまり任天堂自身がHomebrewで実現できる機能の価値を認め新型ゲーム機に採用したことに他なりません。

動作しないようプロテクトを用意した任天堂の失敗
明らかに著作権侵害など存在しないにもかかわらず、任天堂は常に著作権侵害だと言い続けてきました。虚偽報告に基づき著作権侵害と言いながら、任天堂の提訴の内容は著作権侵害と関係がない、マジコン販売により自社が認めないプログラムからのアクセスによりゲーム機のセキュリティプロテクトを壊滅させられたという内容でした。しかし逆にDivineoはそのようなプロテクトが存在すること自体違法行為であると主張しました。ヨーロッパの法律ではセキュリティプロテクトを施すような保護策を禁じているためで、製品の所有者が望めば独自のソフトウェアを使用できる権利を剥奪するセキュリティプロテクトは認められていません。マジコンが仮にプロテクトを無効化してゲーム機にアクセスした場合、任天堂のゲーム機内部ではそれを動作するように相互運用性を高めておく必要があります。

任天堂はフランスとヨーロッパの法律を遵守するつもりがなかったことは間違いありません。ゲームにプロテクトを施す代わりにゲーム機本体でブロックしていたわけです。任天堂にとっての本当のゴールは、彼らが法廷で主張していた「消費者保護のため」などではなく単なる自己利益のためで、自社ゲーム機を使って製品を発売するなら金を払わせたいだけなのです。

判決で得られた相互運用の権利がもたらすもの
ゲーム機に限らずほとんどの製品は基幹企業だけで全てを供給することも新製品のゲーム機を発売することも不可能です。アクセサリービジネスはほぼ独占状態の企業の周りに集中しがちです。相互運用を認めないのは大企業として単に経営危機に陥っている多数の企業の存続のために保護する場合に限られます。エンドユーザーに選択権を与えることが本来の法の精神なのです。

任天堂は自作アプリケーションの存在を無視しようとしたため、Homebrewはマジコンがないと動作させることが出来なくなりました。もしマジコンが違法だとすると、任天堂が拒否したからHomebrewは存在できないということになってしまいます。開発する側としてはメーカーの許可がないとゲーム機をはじめコンピューターでもアプリケーションを開発できる権利が得られないのです。

マイクロソフトはDatel製のメモリーカードを動作しないよう締め出しました。DatelがXbox 360のプロテクトを回避できなければあのようなユニークな製品は生まれませんでした。

もしこの法律が存在しなかったら、WindowsでGoogle Chromeも動作しなかったでしょうし、エンドユーザーも購入製品を大メーカーにコントロールされてしまいます。新発想の製品や機能追加といった、メーカーとは独立した関係の開発者がもたらしてきたものを思い浮かべれば、その存在がいかに重要なのかは分かるでしょう。

そんな優れた法律と今回の判決で守られるのは、選択の自由が与えられるユーザーなのです。フランスと、そしてヨーロッパの人々が期待するのはこの法律による民主的な公平性なのです。

任天堂が抱える問題と著作権侵害との戦い
マジコンは世界中で合法的に販売されてはいますが、一部のユーザーに不正コピーゲームのために利用されていることは当然把握しています。しかしマジコンはニンテンドーDSに革新をもたらすデバイスです。個人の開発者がもたらすHomebrewによってゲーム機に価値が付加され続け、ゲーム機本体の販売にも寄与していることは疑いようのない事実です。
確かにマジコンは残念なことに不正コピーを用いた著作権侵害行為のためにも使われています。しかしフランスで違法ダウンロード対策法
HADOPI(著作権のあるファイルを違法に共有するユーザーは、1度目は電子メールで警告、2度目は書面による警告を受け、3度目は裁判所から最長1年間のネット接続切断、あるいは罰金を命じられる)が成立したため、今後はより著作権侵害行為の取り締まりを強化できます。iPodでAppleを訴えなくても直接著作権侵害をしたユーザーを訴えることが出来るようになるのです。もちろん任天堂のゲーム(サードパーティー製ゲームも同様)にも適用されるのでわざわざ合法製品を扱う販売会社を提訴しなくても直接違法行為を犯したユーザーを訴えることが出来るようになります。

今後について
Divineoフランスでは2007年からマジコンの販売を中止していますが、他の一般的なショップでは人気商品となっています。マジコンを求めるユーザーはニンテンドーDSの機能をフルに活用したいと考えています。現在任天堂のゲーム機をもつユーザーに数多くのHomebrewを起動できるような環境を提供しつつ不正コピーゲームは起動できないようにする手段を検討中です。しかし任天堂のプロテクトが不適切なためマジコンにとって安全な解決策がとれるかと言えば、かなり難しいかあるいは不可能である可能性もあるため解決には困難を伴います。今後はゲーム機やエレクトロニクス製品のアクセサリーと同様、現在作業は進行中ですがHomebrew開発者の方に向けて、ニンテンドーDSというゲーム機でHomebrewというフリーウェア/シェアウェアを提供してもらうための本当の意味でのソリューションを提案したいと考えています。

皆様の暖かい支援に厚く御礼申し上げます。そして本年もよろしくお願いいたします。
Divineo Team


一度合法の判決が出たところで現在の流れが変わるかと言えばおそらくそうはならないでしょう。
何故なら、Divienoのように正当な理由を掲げて任天堂と法廷で対峙しないからです。

DSでHomebrewを実行するマジコンは進化の道を間違えた 第3部
へ続く

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