任天堂が、「ニンテンドーDSで起動するマジコンと呼ばれる装置」を輸入販売していた業者への販売差し止めと損害賠償を求めた訴訟で全面勝訴したと発表していました。
今回の東京地裁の判決では、任天堂他の原告の主張を全面的に認め、被告(任天堂に目をつけられてしまった複数の輸入業者の一部)に対しマジコンの輸入販売行為自体の差し止めと、マジコンを販売したことに起因する1億円近い損害賠償の支払いを命じました。結果的にマジコンの違法性と、マジコンが正規ゲームソフトの販売に与えた損害に対する輸入販売業者らの賠償責任を裁判所が認めたことになり、任天堂は「ゲーム業界全体にとって重要な判決である」とコメントしています。
被告となった輸入業者が法廷で弁護士をつけて本気で争ったのかどうかまでは分かりませんが、被告が控訴しない限り東京地裁の判決が確定します。過去の判例となりますので今後マジコンの類いは任天堂が提訴すれば民事訴訟で100%勝てます。
「ニンテンドーDSで起動するマジコンと呼ばれる装置」は、英語ではFlashcart(フラッシュカート)と呼称されます。利用用途は2つあり、1つはHomebrew(自作アプリケーション)の起動に必要なデバイスとしての機能、そしてもう一つがバックアップゲームを起動するための機能です。
任天堂による訴訟に発展したのは後者の機能についてであり、本来、購入したゲームをその購入者自身がバックアップして利用しているだけであれば訴訟沙汰にならなかったものを、ゲーム自体がインターネット上で誰でも簡単にダウンロードできる状態にして流通してしまったことにより、「ニンテンドーDSで起動するマジコンと呼ばれる装置」が違法に流通したゲームの海賊版を起動するためのデバイスと定義されてしまいました。
Homebrew起動もバックアップ起動も、かつては法律で禁止されているものではありませんでした。そのため任天堂は、提訴のよりどころとなる法律を不正競争防止法にもとめました。刑事罰を求めた被害届の提出ではなく、著作権法違反での検挙が困難な”海賊版を流通させた人物”への損害倍書を求めた民事訴訟でもなく、不正競争防止法に基づく輸入業者への販売差し止めです。
2011年12月に施行された改正不正競争防止法により、セキュリティーを回避して海賊版ゲームの起動を可能にするマジコン等装置の輸入販売行為に対して刑事罰が導入されました。また関税法も改正され、マジコン等の不正な装置は輸入禁制品にも指定されています。
つまり、任天堂の訴訟をきっかけに各種法律が改正され、現在では「ニンテンドーDSで起動するマジコンと呼ばれる装置」の輸入や販売は違法行為となりました。根拠となる法律があれば警察も動きやすくなります。
かつての法律上の定義だけなら、著作物を違法に流通させたことが諸悪の根源であり、本来の筋から言えば海賊版を流通させた人物を民事訴訟で提訴すべきですが、それには警察の協力がかかせませんし、時間がかかる上に氷山の一角を逮捕したところで実益が得られません。そこで任天堂が選択した手段は、抑止力を狙った”別件提訴”だったと言えます。
インターネット上で違法に配布されている海賊版を起動するために存在すると定義された「ニンテンドーDSで起動するマジコンと呼ばれる装置」は、かつては一般的なPC販売店の店舗にも陳列されてしまう程普通に手に入るものになっていた時期がありました。海外から個人輸入するか、それを販売するオークションなどで手に入れるしかなかった時代のままであれば任天堂の”別件提訴”もなかったでしょう。また、ボロ儲けを狙った悪徳な輸入業者の行為が輪をかけたのも事実です。
今回の判決で認められたのは「ニンテンドーDSで起動するマジコンと呼ばれる装置」の輸入販売差し止めです。販売できない・輸入できないので実質的に購入もできませんが、所有すること自体に制限が課されるものではありません。既にニンテンドーDS自体が1世代前のゲーム機で現役を退いていますので、この判決で一連の任天堂の訴訟は一段落するものと思われますが、違法コピーがインターネット上に流通している問題は何の解決もしていません。
任天堂は「これにて一件落着」ですが、ソニーやマイクロソフトにとっては何のメリットもない判決です。