Homebrew Channelはなぜ開発中止になったのか

fail0verflowチームが、Nintendo WiiでHomebrewを起動するためのHomebrewローダーHomebrew Channel (hbc)をアーカイブ化し、開発終了を宣言していました。

一昨日概要だけGameGaz Daily 2025.4.28でお伝えしました。アーカイブ化は今後はリポジトリを更新しない、つまり開発終了宣言に当たります。

何故開発を終了したのかには理由があったのですが、前回の記事の時は個別記事を改めて書くつもりでそこは省略しました。結局記事を書く時間の余裕が無かったので一昨日は記事を出せませんでした。

Homebrew Channel (hbc)開発終了、というより事実上の開発中止の根本的な要因は、devkitProチームが開発しているGameCube時代からのHomebrew開発用Cライブラリlibogcにありました。

libogcは随分以前から存在しています。最初のコミットは2004年8月3日でした。つまり21年近く開発が続いているという歴史と実績のあるライブラリということになります。そのlibogcにHomebrew Channel開発中止の原因があるとは一体どういうことなのでしょうか。

Homebrew channel

Homebrew Channelはmarcan氏を中心とするTeam Twiizersが(あまり記憶がないのですがこの記事の内容から計算すると)2010年夏ごろにリリースしています。Team Twiizersはその後PS4に手を出したときにfail0verflowチームとして活動したことから、今はそちらがチーム名になっています。

Team Twiizersとfail0verflowチームの歴史の説明をしたところで、今回のHomebrew Channel開発中止に迫ります。fail0verflowチームのmarcan氏はHomebrew Channel開発中止の理由を以下のように述べています。

他のWiiのHomebrew同様にHomebrew Channelもlibogcに依存している。libogcの大半が公式SDK(ソフトウェア開発キット)または公式SDKを使用したゲームのリバースしたコードを盗用していることは当初から気がついていたが、重要な部分はオリジナルコードだと信じ、devkitProのプロジェクトとは距離を置きつつもlibogcを使ってきた。

ところか、libogcのスレッドや実装が実はRTEMS(APIをサポートしたマルチプロセッサシステムでリアルタイムに実行する、オープンソースのリアルタイムOSシステム)から盗用されたものであることが最近明らかになった。 オープンソースのコードを盗用していたことになる。オープンソースのライセンスはソースコードや付属文書に含まれる著作権情報を表示しなければならないが、libogcにはそれがなくあたかもオリジナルのように偽っている。明白な悪意を持ったコード盗用と著作権侵害だ。任天堂の著作物をリバースすることの著作権侵害についても無知だと言うレベルを遥かに超えている。

我々がそれを指摘するイシューを発行すると開発チームはそれを削除してきた。そのことから問題を解決するつもりがないことは明白だ。

こういった経緯から、現時点では合法的かつ正当にソフトウェアをコンパイルすることは不可能であると判断する。これ以上のHomebrew開発を奨励することはできない。WiiのHomebrewコミュニティは嘘と著作権侵害で成り立っている。

このmarcan氏の批判に対し、devkitProのAlberto Mardegan氏は(ここ数年で開発に加わったため、古い歴史は知らないと前置きしながらも)コードは盗用ではないと反論しました。

marcan氏は具体的なコードを明示してコードの類似性を盗用の根拠にしているが、非難は根拠のないものだと自信を持って言える。そのコードを見たただけで判断できる。

marcan氏は何故か最近のコードを提示しているが、言われればなんとなく似ている程度のレベル。逆に最初の頃のコミットを見ると類似性は更に低くなっている。

たとえば今のlibogcとRTEMSにはあるis_preemtibleという変数は、古いlibogcにはない。ところがRTEMSには少なくとも1996年から存在している。libogcのコードがRTEMSから盗用されたのだとしたら、最初から盗用せず後から追加したことになる。RTEMSのコードを参考にした可能性は確かに高い。グレーだと言われればそうかもしれないが、C++で書かれたコードを参考にRustやC#にして翻訳したとき、自分でもそれがオリジナルの派生だとは考えない。

libogcが盗作だという非難は行き過ぎ。我々が話しているのは芸術作品ではなくサイエンスやエンジニアリングの話で、クレジットは必要なのは分かるが他人の仕事をベースにして行くのは普通のことではないのか。
libogcの起源を調査し、それを公にしWiiのHomebrewコミュニティ全体を害する必要性があるのかは理解に苦しむ。

この反論を受け、marcan氏は追加声明を出しました。

libogcの開発者はコードの盗用を否定しているが、言ってることはコードのコピペはしてない、出所が分からないよう変更しただけ、RTEMSを参照したことは認めたと言う話だ。確かに当初のオリジナルのlibogcコミットはRTEMSのコピーではないので、RTEMSをコピーして改変したのではなく時間をかけてRTEMSのコードを少しずつ取り込んだのだ。
言ってみれば『ロード・オブ・ザ・リング』をコピーして、白紙のドキュメントを用意し全体の構成は維持しながら登場人物の名前を変えて別の言語で入力し直したに等しい。

Alberto Mardegan氏はlibogcは芸術作品ではないと言っていることに対し、marcan氏は芸術作品を例示して再反論しているところに全てが集約されています。

技術の発展は模倣なくして成り立ってこなかったのは事実です。他人のコードを参考にして同じ変数を使ったり、ロジックを参考にしたりすることを著作権侵害とみなして完全否定する考え方は著作権の超飛躍解釈です。オープンソースで公開されているコードを使用してクレジットも出さずクローズドソースコードで有償化し自分の著作物として主張している訳でもないのに叩かれなければならない理由が理解できません。

marcan氏はこれまでの絶大なシーンへの貢献の名声を一発でふいにしたとしか思えません。このパターンの行く先はmarcan氏が叩かれて拗ねて引退する未来しか見えません。是非改心してほしいものです。