任天堂の経営方針、「期待外れ」で片付けていいのでしょうか?

任天堂の岩田聡社長は先月1月30日に経営方針説明会を開き、その中で今後の戦略を発表しました。その時の様子は社長説明資料で公開されています。

この発表について、メディアでは産経新聞のように全体的には期待外れの論調で、株価も発表後に急落したことと相まって市場からは落胆の声が聞こえてきます。

私も、時代に合わせてスマートフォン向けに任天堂がコンテンツを提供すればいいのではないかと思っていたので市場と同じような反応だった訳ですが、岩田社長の説明を聞いて少し考えを改めました。今日はその話について意見を書いてみます。

平成26年3月期連結業績予想を大幅下方修正したことで、今後の経営計画としてスマートフォン向けコンテンツの提供など今まで任天堂が取り組んでこなかった分野への資源投入の声が高まりましたが、岩田社長はその声に耳を傾けるのではなく任天堂が任天堂としてあり続けるための展望を語りました。具体的には以下にような内容でした。

    ・ビデオゲーム専用機プラットフォームの未来を決して悲観しているわけではないため、「ハード・ソフト一体型のビデオゲーム専用機プラットフォームを経営の中核とすること」は、今後も変えない。任天堂の強みを最も活かせるのが、ハード・ソフト一体型のプラットフォームビジネスである。ハード・ソフトを一体で提案するからこそ、ニンテンドーDSの2画面タッチスクリーンや、WiiにおけるWiiリモコンやバランスWiiボードのような提案ができた。

    ・山内前社長の時代から受け継いでいる「娯楽は他と違うからこそ価値がある」という考え方を大切にして行く。

    ・Wii U GamePadの存在意義を高め、Wii U GamePad があるからこそ実現できるソフトタイトルを提案とNFC機能のポテンシャルを活用。初夏に予定している本体更新で、Wii U GamePadで高速起動メニューを実現。

    ・ニンテンドーDSのバーチャルコンソールを実現。

    ・『マリオカート8』は全世界で2014年5月にすることに決定。

    ・顧客をNNID(ニンテンドーネットワークID)で一元管理していくことで、このNNIDを通じた顧客とのつながりを、今後の任天堂プラットフォームと再定義していく。

    ・「健康」分野への新規事業開拓。

健康分野への新規事業という話はあるものの、ゲームユーザーの視点では目新しい話題がありませんし、新たに岩田社長が提案する内容も具体性に欠けるため明確なイメージが涌きません。

そのあたりが株価を下げることになった要因なのでしょう。

私が気になったのは、岩田社長のこの言葉です。

「任天堂は連結従業員数が5000人あまりと、決してリソースリッチな企業ではありません。」

調べてみると、任天堂は関連会社を含めた連結従業員数が5,000名あまり、関連会社にはニンテンドーオブアメリカのような海外本社や株式会社ポケモンのような企業などを含んでいます。単純な任天堂の従業員数は2,000人そこそこです。

これが例えばPlayStationのSCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)の場合、関連会社となるとソニー本体まで話が及ぶため連結従業員数は146,300人、SCEのみの場合は1,400人になります。

ゲーム関連企業としての任天堂の規模は決して小さくはないですが、世界市場を商用圏にしている企業として見るとソニーに比べて任天堂は圧倒的に規模が小さいのです。マイクロソフトも巨大企業ですから、実は任天堂が5000人規模のヒューマンリソースでソニーやマイクロソフトと肩を並べて勝負していること自体、任天堂の実力が最大限に活かされた結果と見て良いでしょう。

体力勝負を挑んだのでは、ソニーやマイクロソフトには間違いなく太刀打ちできません。もちろんソニーやマイクロソフトでもできるようなビジネスを同じように展開していたのでは太刀打ちできなくなることも明白です。スマートフォンに自社コンテンツを提供、というのがソニーやマイクロソフトでもできるビジネスだと捉えると、そこに任天堂が勝負を挑むことのリスクの高さが分かります。

スマートフォンのコンテンツは数が多すぎるため、ユーザーの目に留めてもらうためには宣伝や広告が必要になってきます。そこで体力勝負するのは確かにビジネスとしては成立しにくいかもしれません。

今スマートフォンコンテンツで受け入れられているのはパズドラなどを見ても分かる通りタッチパネルなどスマートフォンならではの操作体系を持ったゲームです。マリオやゼルダをそのまま移植しただけでは受け入れられないのは明白です。殆ど新規になる操作体系の練り直し開発を行った上でビジネスとして成立するように販売ないしはゲーム内課金を盛り込み、売れるように宣伝も行わなければなりません。個人やインディーズを含め無数のライバルが存在するその土俵で任天堂らしいビジネスを構築しつつ、ソニーやマイクロソフトを睨んで3DSや不調のWii Uビジネスも継続するというのは任天堂のビジネスとして成り立たないでしょう。

任天堂もスマートフォン向けコンテンツを、という考え方を私が改めたのは上記の理由からです。忘れてはならないのは、任天堂のゲーム戦略はビジネスの一本柱であるということです。ソニーやマイクロソフトは戦略上の柱にすることはあってもビジネスの柱ではありません。任天堂からゲームを無くすと企業の存在価値はなくなってしまうのです。

今は娯楽だけをビジネスにしてきた任天堂という企業を、密かに応援してあげようではありませんか。任天堂が立ち行かなくなったとき、それは娯楽だけではビジネスにならなくなった時です。そんな時代もこの先来るかもしれません。任天堂が健康をターゲットにした新規事業に取り組むのはそんな時代の到来を危惧しているのかもしれませんね。

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『任天堂の経営方針、「期待外れ」で片付けていいのでしょうか?』へのコメント

  1. 名前:GK 投稿日:2014/02/02(日) 20:42:09 ID:81b6be2db 返信

    >ユーザーの目に留めてもらうためには宣伝や広告が必要になってきます。そこで体力勝負するのは確かにビジネスとしては成立しにくいかもしれません。
    TVCMなどでは任天堂が一番頻繁に見る気がしますけどね。
    ソニーやMSに宣伝で対抗できないということは無いと思います。
    むしろWiiなどで好調だった時は最も広告を打っていたのではないでしょうか?

    • 名前:mamosuke 投稿日:2014/02/02(日) 22:06:00 ID:d7c95ff41

      不調のWii Uを挽回しなければならない上にスマートフォンコンテンツのCMを出すのは分散するので現状では難しいと思いますよ。株式会社ですから年度予算の中で広告費だけ融通が利くということもないでしょうし。