決算説明会資料から見た今とこれからのニンテンドー

任天堂が、2013年4月25日(木)に行われた任天堂の岩田聡社長による決算説明会の資料を公表しました。基本的には株主向けのプレゼンテーションですが、今とこれからの任天堂のあり方を示す場ですのでユーザーにとっても興味深い内容が沢山記載されています。個人的に気になった、あるいは注目の情報をまとめてみた上で、個人的見解を書いてみます。

3DSが強いのは日本だけ

日本ではニンテンドー3DSが値下げ後爆発的に普及し、どうぶつの森などのキラータイトルの登場と相まって「1強」状態が続いている印象があります。

事実、3DSはコンスタントに売れており、町中でプレイしている携帯ゲーム機で最もよく見かけるのはニンテンドー3DSではないでしょうか。

例えば2013年1月から3月までのハード市場占有率のデータを見ても、日本ではニンテンドー3DSが53%を占めているのに対してアメリカでは19%、ヨーロッパでは18%と、日本だけが飛び抜けて売れていることが分かります。Wii/Wii Uと合わせると、やはり任天堂の1強市場という市場性が非常に特異です。

このブログでは毎日海外のゲームニュースサイトの情報を集めていますが、印象として最も多いのは据え置きゲーム機のXbox 360です。日本ユーザーの感覚と欧米ユーザーの感覚の大きなズレの要因はその辺りにあり、根本的には狭い家屋の中でテレビを占領するゲームをプレイする文化に向かない日本での携帯ゲーム機への傾倒が日欧米のゲーム機シェアに現れているのではないでしょうか。だとするとこの傾向は今後任天堂がどう頑張っても変わらないということになります。

タイトル不足で盛り上がらないWii U。E3を契機に攻勢をかける

Wii Uは発売時こそ売れたものの、週間販売台数で10,000台を割り込むことが当たり前になっています。
売れないと直ぐに「値下げだ値下げ!」的論調が出てくるのはゲーム市場の特性ですが、さすがに3DSで懲りた経験を持ってして発売したWii Uでもまたすぐ値下げをするようなことは任天堂の株価を大幅に下げる要因になりますので少なくとも発売後1年はあり得ないでしょう。

もともと任天堂はサードパーティのキラータイトルに頼らず(頼れない、と言った方がいいのかもしれません)自社でキラータイトルを発売して勢いを付けるメーカーですが、Wii U発売後しばらくした次期の肝心なところでヒットに恵まれず勢いを大きく落としてしまいました。

岩田社長自身、鍵は「新しいハードを購入いただけるかどうかは、そのハードでしか遊べない有力タイトルがあるかどうかで決まる」としています。サードパーティーに独占的にタイトル供給よりもまず必ず独占供給となる自社タイトルの充実でシェアを増やすことにより、サードパーティーのモチベーションを上げることが先決です。

任天堂は今年のE3で「年内、あるいは、来年初頭のタイトルについて、より具体的にお知らせ」すると明言しています。したがってE3ではゲームタイトルの発表を中心とした構成にすることになります。

今年のE3ではステージでの大規模なプレゼンテーションを行わない

最近の任天堂はNintendo Directといったストリーミング放送を活用してプレゼンテーションを行う取り組みを進めてきました。そして今年のE3では「これまでにない取り組みとして、E3での新たな発表形式を確立することにチャレンジ」として、大規模なプレゼンテーションは行わず、小規模な米国向けソフトに焦点を当てた複数のイベントを行う計画を明らかにしました。

小規模な例として、流通関係者向けのクローズドイベントや、メディア向けの体験型イベントなどが挙がっています。

大規模なプレゼンテーションには、必ず岩田社長自らが登壇してきましたが、小規模なイベントの場合は岩田社長は登壇しないとのことです。

では、岩田社長は何をしているのかと言うと「E3の時期に当社からゲーム情報をご家庭におられるプレイヤーの皆様に直接お届けする新しい方法を継続して検討中」としていますので、生放送ではないと思いますが、何らかの形でNintendo Directのようなストリーミング放送に登場するのではないでしょうか。

一方で、E3での任天堂の動向は全て各種メディアからしか情報が発信されないことをも意味しますので、海外なんてとても取材に行けないゲームブロガーとしては少しさみしい思いです。

流行を作れるか?「Miiverse」が任天堂デバイス以外での展開開始

Miiを利用したコミュニケーションツール「Miiverse」がいよいよPCやスマートフォン上でのウェブサービスとして開始されました。現在はWii Uのみのサービスですが、PCヤスマートフォンをはじめとしたデバイスのみならず、年内には3DSのファームウェアアップデートで3DSでも対応することになりました。

Mii自体はかなりユニークなサービスですので任天堂のシェアを伸ばす起爆剤に十分鳴り得るものです。一方で、当然任天堂は自社ゲーム機の販売に繋げないと意味がないわけで、いくらスマートフォンやタブレットで「Miiverse」を楽しめても所詮はWii Uや3DSのサービスの補完でしかないのは明らかです。そのあたりのバランスをいかに取って行くのかという任天堂の戦略は注目に値します。

ソフトのダウンロード版の微妙な存在

任天堂は3DS/Wii Uでソフトのダウンロード版販売に注力しています。カードリッジを販売する今までの流通経路で、パッケージ版と同価格でダウンロード版のシリアルコードを販売していますが、ダウンロード版こそ直販で流通中間マージンを削減して安く販売して欲しいというのがユーザーの意見だと思います。

最近はコンビニエンスストアでもダウンロードカード販売を開始しています。コンビニのレジの目立つところに『とびだせ どうぶつの森』販売中などのPOP広告を見かけると、コンビニ販売ルートを活用した販売方法はなかなか強力だと感じます。

任天堂は「デジタルビジネスを拡大していくための最大のハードルのひとつが、”デジタル商品を認知していただくための露出手段が、限定されていることにある”」と考えていることから、ダウンロードで購入してもらうきっかけを仮想店舗のニンテンドーeショップにアクセスするのではなく実店舗で購入というトリガーを用意したということに尽きます。それはそれで上手い戦略です。

しかし、プレイ後に売却できないダウンロード版の販売価格が売却できるカードリッジ版と同じというのはユーザーとしては解せない話です。これについて任天堂はカードをなくす心配がない、入れ替える手間がない、と余計な心配を表に出して話をすり替えています。ダウンロード版は在庫不要で価格も小売店が決められるので値引き販売も可能としていますが、ユーザーにとってのメリットが見えないのは難点です。

NFCによる小額決済手段としての電子マネー

ニンテンドーeショップでの購入決済には、クレジットカード決済か3000円や5000円と言った定額プリペードカードしか使えません。これは未成年が大きな割合を占めるゲーム市場の決済方法にフィットするとは言えません。つまり500円だけ使いたくても500円をプリペイドで支払う方法がないというのが最も大きな問題でした。

そこで任天堂は、NFCを少額課金の決済手段として活用するとしてWii U のNFC機能で電子マネー決済ができるよう検討を進めていることを明らかにしました。

任天堂は具体的に「日本で最も普及が進んでいる交通系電子マネーであるJR東日本のSuica」での決済を具体例として挙げています。「Suicaなんて周りに誰も使ってねーよ第一メリットないし。」的地方の方はちょっと残念かもしれませんが、交通系ICカードの電子マネーとしての相互利用が今後進んでくると思いますのでそれまでの辛抱です。

もっとも、3DSタイトルの決済の場合は可能になったとしてもWii U経由でしか決済できないため、(今後3DS向けの周辺機器や、NFC搭載3DSでも開発されない限り)どのような戦略を描くのかに注目です。

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『決算説明会資料から見た今とこれからのニンテンドー』へのコメント

  1. 名前:ハム 投稿日:2013/04/28(日) 01:36:35 ID:9f07a61f3 返信

    任天堂はもうハード事業やめてほしいね。
    出すハード出すハード全部前世代クオリティ。
    そんなハードでも任天堂ブランドで売れちゃうもんだから、サードも
    結局しょぼいハードにゲームを作るようになってしまう。
    そうすると何時まで経ってもゲームが前世代クオリティのまま。
    任天堂はそろそろソフト屋になるべき。PS4なりXbox720なりで
    任天堂ゲーム作ればいいんだよ。

    • 名前:mamosuke 投稿日:2013/04/28(日) 01:59:37 ID:fae7e60d2

      ソニーやマイクロソフトコンソール向けに任天堂がコンテンツ出すべきとは思いませんが、PlayStation Mobileのような既存のプラットフォーム向けにバーチャルコンソールのようなコンテンツが起動する仕組みはあっても良いと思います。